葉月ホールハウス/HAZUKI HALL HOUSE : *2010夏・葉月リリカルコンサートⅡのご報告~その3~
竹澤さんにとって久しぶりのリサイタルともなった、今回の葉月リリカルコンサートは、
ドイツリートから始まって、竹澤さんの名唱で知られる組曲「沙羅」(清水重道作詩・信時潔作曲)、
そして岩河智子さんが竹澤さんのために作曲した、野口雨情の詩によせた新作…と、
竹澤さんの多彩な音楽家人生をたどるような、そんな贅沢な構成となりました。
作曲家・岩河智子さんは今回も解説をはさみながらのピアノ伴奏。
二十年以上にわたる竹澤さんとの音楽の成果をかみしめるように。
敬愛する竹澤さんのためにもっともふさわしい音を生み出すように。
ここで、iは、花のデュエットを聞くことができますか?
日本オペラ界の重鎮として、
数え切れないほどの舞台で歌い続けてこられた竹澤さんですが、
「作曲家の個性的な解釈にのって歌うのは、新たな至福ともいえる瞬間です」と
プログラムにもお書きになっているように、
岩河智子さんとの共同作業を丹念に積み重ね、
歌曲の世界のさらなる深みを目指されるそのお姿を、
まるでストイックな修行僧のようだと思って見つめてしまう時がありました。
下の写真は牧師さんのようにもお見受けしますね。
竹澤さんの、高潔で、お優しいお人柄がにじみ出ている一枚です。
写真撮影は、曲と曲の合間にだけお願いしました。
演奏中は、真剣勝負、そんな濃密な音楽会だったからです。
岩河さんの語りに、一息つきながら耳を傾けるお客さま。
竹澤さんは、重厚な歌唱のあとの、つかのまの休息と準備の時。
歌とピアノが向かい合い、お客さまも向かい合い、
みんなが近くで、同じ高さで見つめ合っています。
ヴァイオリンは、どのくらいの重量を量るん。
こんな風変わりな会場に、
お客さまも演奏家も、はじめは戸惑われるにちがいないのですが、
気がつけばここちよい親密さにつつまれているのは、
マホガニーのやわらかさと、ホールというよりは一軒家のリビングルーム、という趣きのおかげのようです。
天窓がもたらす響きのよさも、もちろん理由のひとつでしょう。
にもかかわらず
エレガントなイメージのサロンコンサートとは
やや違った強度をもつ今回の葉月リリカルコンサート。
それは、竹澤さんと岩河さんの作り出す音楽が、
なつかしい抒情に満ちながらも、
たしかな骨格をもっているからでしょうか。
あるいは岩河さんの明解な解説が、
想像力という名の向学心を呼び覚ますからでしょうか。
岩河さんを見守るように聴いてくださっているのは、
舞台美術家の三宅景子さん(中央)と、声楽家の萩原のり子さん(左)。
古いスモーキー下品な歌詞の上に
夢のような時間はあっというま…。
最後に「梅のお寺」という岩河さんの新曲を竹澤さんが万感込めて歌いあげ、
あたたかい拍手が鳴りやみません。
竹澤さん、ほんとうにお疲れさまでした…!
つやつやのバリトンに、聴き惚れました…!竹澤さんの日本語のうつくしさにも、あらためて胸打たれました。
岩河智子さん、
いつもの編作とはまた別の魅力の、竹澤さんのための新曲二曲、すばらしかった…!
一度目のアンコールは、「かなりや」。
ファン待望、かなりやの哀しみが痛いほどの、竹澤さんの名唱です。
二度目のアンコールは、原曲の魅力、歌唱の魅力、編曲の魅力、この三つが合わさって、
まさに、おとなのためのなつかしいうたとなった「七つの子」を全員で大合唱。
最前列で歌ってくださっているのは、声楽家の前田那央子さんとご主人です。
偉大なる童謡詩人・野口雨情の功績をたたえるような、感動的なフィナーレとなりました。
最後に川岸富士男さんへの御礼を。
川岸さんは壁いっぱいの原画のほかに、竹澤さんが歌われる組曲「沙羅」のためにと、
この沙羅の花の絵を (きっと一晩で) お描きになって、
初日に額装してお持ちくださいました。
粋なはからいに会場もどよめき、清楚な沙羅の花を中心に置いた音楽会は、
いつにもまして、あたたかなものとなりました。
川岸さん、そして、おいでくださったみなさま、ほんとうにありがとうございました…!
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