ここで、ディクシー·チックスは、見学している
レーベル運営の悲喜交々:音楽の不思議、音の不思議
レコーディングの度に、ここによく書いている話ですが。レコーディングというのは、もちろん同じ曲を何度も何度も聞くことになります。
まず、レコーディングがはじまる前の、作曲やデモの段階で何十回と。
そして、その次にプリプロといって、ある程度作られた曲にもう少しアレンジや肉付けをして、人に聞かせられる程度にするという作業があるのですが(僕は、これを「Ver.0」作りと言っています。これが全てのもとになる形だから、バージョン・ゼロ。ここで、楽曲の良し悪しは大体分かります、というか、僕は分かっているつもりです)、この段階で数十回と。
そして、晴れてレコーディングに入ります。
録音する為に、アーティストは演奏します。
その演奏を、僕は、見ながら、そして、聞いています。
その演奏が終わったら、アーティストは今の演奏がどうだったかを確認する為に、その演奏を聞きます。
さっきその演奏を聞いていた僕も、また、聞きます。
実は、この上の2行に書かれている点がとても重要で、ここで、演者と制作者は、「聞く」という行為だけにおいては、倍の差が付きます。
タイラ·バンクスの誰であったが2012年4月18日表示そして、その日の録音を確認する為に、スタジオから帰る車で、CD-Rを聞きます。
家でもCD-Rを聞きます。
翌朝スタジオに行く時にも聞きます。
それを、数日間(短ければ3日ぐらい、長ければ3週間ぐらい)続けることになります。
その間、僕らは、聞き続けます。
そして、録音が完成しました。
次は、音を混ぜるミックスです。
ここでも、聞いて、聞いて、聞きまくります。
前述の行程が演奏の良し悪しを決める聞き方であるなら、ここでも行程は音の良し悪し、配置の良し悪しを決める聞き方になります。なので、ヘッドフォンが必須になってくるし、それこそ、車や、ラジカセ、家の高級なオーディオなど、全ての環境で聞きまくる事になります。
正直、ここまで来ると、もう苦行と言っても過言ではありません。
この工程は、ほぼ同じ曲をそれこぞ、百回近く聞きます。
正直に告白します。
この工程の最中、僕はこの曲を聞いてもなんら感情が動く事はありません。
音を、音としてしかとらえないためで、これらの音を音楽として受け止める心を閉じているのでしょう。
そして、最後の最後に、マスタリングという行程に入ります。
これは、人や会社によって考え方が変わりますが、僕の考えでは、作業的には制作の最終工程。予算的には製造の最初の行程となります。
このマスタリングスタジオというのは、とにかく、音が良くて良くて、半端ない。
はっきりいって、こんないい音で音楽を聞く瞬間は、この時だけと言っていいでしょう。
と、いう事は、ここまでそれこそ、何百回と聞いてきた楽曲達を、もう二度とないという高音質で聞く事の出来る機会と言えます。
なので、マスタリングは、内容は信頼できるエンジニアにお任せして、僕は、もっぱらいい音で聞く方に回ります。
そして、マスタリングも無事に終わり、制作の最後の最後には、最終確認という名の、アルバムの通し聞きがあります。もちろん、そのとんでもなくいい音環境で。
ブリジットは、プライムタイムシリーズで誰が好きですか?これは、儀式。
この瞬間の為に、僕は音楽を作っていると言ってもいいかもしれません。
この時は、いつの間にか、僕の心は、音を音としてではなく、音楽として受け入れ、その一つ一つに、感情をもみくちゃにされます。泣いたり笑ったりを、心の中だけで繰り返します。
アルバムなら約1時間。
そんな、至福の時間を持つ事が出来ます。
それが、制作者の幸せ。
あ、ただ、まだ修行の身の、うちの若頭、曽根原僚介(28歳、彼女なし、ニコ動好き)は、この通し聞きの時には確実に熟睡しています。
そして、その出来上がったものを持って、工場へ行き、CDが出来上がり、皆さんのもとに届きます。
そして、僕らは、また、ライブでそれらの曲を演奏します。
何度も、何度も。
こんなに同じ曲を聞き続けて、嫌にならないんだろうか?
僕は、正直、この稼業を始めた頃に、そう疑問に思っていました。
だって、アルバムの曲順を決めるのに、例えば10曲あるとします。
その曲順が5通りの候補があるとします。
で、どうするのか?
僕らは、それを、頭から最後まで、続けて5通り聞きます。
計5時間。
ね、信じられないでしょ?
でも、出来るんですよね、制作中は。
あ、制作中じゃなかったり、他人のプロジェクトを見学に行った時なんかは、到底無理ですよ。
そんなの。
尋常じゃない。
ね、音楽は、やっぱり、いつまでたっても不思議だ。
という今日は、先日録り終えた空中ループの13曲を一日中聞き続けた。
特にそこから選び出されてEPとなる4曲をもう20時間ぐらい聞いている。
そして、不思議な事に、今日はまだ聞き足りない。
うちの猫は、完全にこの音楽に飽きているご様子。
そりゃ、そうだよな。
こんど、お前にも飽きないものを、作ってみるよ。
あ、お前、オレのiPhone、落すな!
チャオ
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